法学部生からみた松戸市の学校給食無償化
2025.03.13
あまり聞き慣れないですが「法律の留保」という言葉があります。
行政が活動するためには、その根拠となる法律が必要で、行政の活動は法律のみが決定することを意味します。
罰則をともなうものであれば罪刑法定主義といって、厳格な規則のもと適用されるかどうか判断されます。
そのため罰則については法律に留保されているといえるでしょう。
ところがこの「法律の留保」。
どこまでが行政の裁量範囲となるか複数の学説が存在します。
例えば学校給食無償化を松戸市が行うとします。
学校給食法では人件費や光熱費などの運営費は自治体が負担し、食材費は給食費として保護者が負担すると定められています。
とすると、ここでひとつ疑問が生じます。
学校給食完全無償化という行政活動に、法律や条例を制定しなくてもいいの?という疑問です。
「行政の判断でどこまできるの?」
「法律に留保されてないじゃん」
このような疑問がある以上、学説がいっぱい存在するのです。
主に5つの学説です。
少し長いですが説明します。
侵害留保説
全部留保説
社会留保説
権力留保説
重要事項留保説
5つの主な学説
侵害留保説
侵害留保説では、国民の財産を侵害する行政作用についてのみ法律の根拠を必要とします。
行政側からすると自由な判断領域がもっとも広く確保でき、法律の根拠が必要とされる線引きが明確です。
現行憲法化では行政権にも一定の民主的正当性があること。
行政活動が議会で可決された予算を通じて民主的な支配を受けていることから、行政は実務においてこの侵害留保説を採用しています。
もっとも法律の根拠を必要とする範囲が狭いことから、批判があるのも事実です。
全部留保説
全部留保説では、あらゆる行政活動は常に議会の意思である法律や条例の根拠がなければならないとする学説です。
先に説明した侵害留保説とは対極にあたります。
ただしこの学説だと、すべての行政活動に法律や条例の根拠を要求するため、スピード感や多様な要求に対して対応できないため現実的ではないとの批判があります。
社会留保説
ここからは中間的な学説です。
社会留保説では、侵害的行政作用のほかに、給付的な行政であったとしても法的根拠を必要とします。
国民の社会権を公平に保つために、給付であっても公平性を保つ必要があると考えられるからです。
権力留保説
権力留保説では、侵害的であろうが受益的であろうが、権力的な行政行為を用いる行政については法律の根拠を必要とします。
ただし行政指導における助言など対話的なものについては法的根拠を必要としないとします。
重要事項留保説
重要事項留保説では、基本的人権に関する重要な行政作用について法律の根拠を必要とします。
いずれにしても、これら中間的な学説は、その線引きをどこにするか明確にすることが難しいといわれています。
では学校給食無償化を
それぞれの学説で判断すると?
では学校給食無償化について、それぞれの学説からみるとどうでしょう。
【侵害留保説でみると…】
まず侵害留保説の立場でみると、無償化は住民の財産を侵害するものではないため、実施することは可能です。
【全部留保説でみると…】
次に、全部留保説の立場でみると、全ての行政作用に法律または条例の制定を必要とするため無償化は不可となります。
【社会留保説でみると…】
社会留保説では、児童・生徒を養育する家庭にのみ学校給食無償化なので、児童・生徒を養育していない世帯、例えば最も費用のかかるといわれる大学生を持つ世帯とのあいだで公平とはいえないため学校給食無償化を否定します。
【権力留保説でみると…】
権力留保説では財産を制限、侵害であろうが、利益を与えるものあろうかにかかわらずに公権力から住民に対する一方通行的な行政作用に対し、法律の根拠が必要となるとの考え方から学校給食無償化を否定します。
【重要事項留保説でみると…】
重要事項留保説では、基本的人権に関するものには法律の根拠が必要となります。
学校給食無償化を基本的人権で判断するのはちょっと難しいかもしれません。
例えば無償化が一時的で物価高対策となれば生存権の観点から基本的人権と捉えることができます。
恒久的に行うのであれば子育て支援として子どもを社会全体で育てるといったメッセージがあると捉えることができるでしょう。
そのため学校給食無償化が生活支援なのか、それとも子育て支援なのか政策の意図によって見方が変わります。
よって判断ができないということになります。
行政の実務は侵害留保説
以上が法律の留保の考え方と実際の政策にあてはめたときの捉え方です。
行政の実務は侵害留保説の立場をとっていると言われています。
事実、行政裁量はかなり幅が広いと感じるときがあります。
もっとも松戸市の学校給食無償化は子どもを社会全体で育てるものという観点から私としては完全無償化へ進めるべきものと考えます。
ただし、今のように行政裁量で行うと不安定な状態になるので、国の無償化事業をみすえたうえで恒久的な制度にすることを望みます。
【おわりに】
法学部ではこのような勉強方法でリーガルマインドを培ってきました。
せっかく勉強したので、今後は「法律の留保」も意識しながら議会活動を行っていきたいと思います。
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